私のアメリカ大学院留学─総集編(1)

いままで何度となく振り返っていますが、最後に私の留学体験を時間軸に沿ってまとめてみます。ラストから三つめです。

  • 留学を志す

小さい頃は大の外国嫌いでした。家族旅行で海外には何度が連れ出されましたが、外を見てまわるよりもホテルの中で閉じこもっているほうが好きでした。外国人に言葉は通じないし、ジロジロ見られているような気がするし、とにかくシャイだったのです。それがなぜ大学を卒業してアメリカに留学する気になったのか。
本当のところを行ってしまえば、これだ!という明確な理由はないのです。「なんとなく」というのが一番正直な答えかもしれません。なんとなく面白そうだから、なんとなくカッコいいから、なんとなくためになりそうだから、その程度の理由です。一度決めてしまうとてこでも曲がらないような所が昔からあったので、思いついてからの行動は一貫していたと思います。その「なんとなく」に貢献したと思われる事柄をリストアップしてみると:

1.母が家をよく外国人のホームステイ先に提供していた。
2.父が博士号取得と海外留学を共に勧めていた。
3.大学の友達に海外留学(語学学校など)をした奴が何人かいて話を聞いていた。
4.大学3年の時にイギリスを旅行して大学を見る機会があった。
5.アメリカの大学院は給料をくれるということを知った。
6.アメリカの大学院に行けば英語も専門知識も学べて一石二鳥だと思った。
7.大学4年の時にジャンケンで負けて希望の研究室に配属されなかった。
8.日本の古い研究室体制に嫌気が差した。
9.そのとき積極的に日本に残る理由が見つからなかった。
10.クラスメイトのほとんどは同じ大学の大学院に進学するので何か皆と違うことがしたかった。

とこういう感じでしょうか。最初はイギリスの大学がいいなあ、と思っていたのですが、生徒や研究の多様性と質、給料の点(アメリカは大学が給料を保証してくれるのに対し、イギリスは奨学金により払われる)などでアメリカに行きたいと思うようになりました。最終的に「絶対に留学してやる!」と思ったのは大学3年の終わりの研究室配属以降でした。大学院の申請準備には最低でも1年はかかるのでギリギリでした。当然それまでに留学に関するセミナーなどにも出席しておらず、全く手探りで始めることになりました。
[参考] アメリカ大学院留学の利点

  • 大学院の申請準備

さて、全く何もわからない中で、とりあえず情報を集めなければなりません。まず始めたのは周りに留学経験者を探すことでした。しかし残念ながら、日本の大学で海外大学院経験者を探すのは容易ではありません。ほとんどの教授は同じ大学を卒業して同じ大学院に進み博士号を取った人たちばかりで、海外留学したといっても大概はポスドクで数年間アメリカにいた、という方しかいないのです。多くの人がもし海外留学を志したとしてもここで挫けてしまうと思います。とりあえず周りのサポートがほとんど得られないのです。「もう留学なんてしなくてもこのままでいいや」と思ってしまう人がいたとしても無理はありません。
それでも私は幸運でした。ちょうど近くの研究室に私の5年ほど前にアメリカの大学院に留学された方がいたのです。その方以外には私の知り得た限りでは前例がありませんでした。その方はすでにアメリカにおられたのでさっそくコンタクトを取って、様々な助言を仰ぎました。その方が創設されたアメリカ大学院留学生のメーリングリストにも参加して、そこに参加しておられた方々にも多くの助言をいただきました。これらの方々がいなければ、私は途中で留学を諦めていたかもしれません。
以下にそのメーリングリストへのリンクを示しておきます。もしアメリカの理系大学院に留学しみたいなと思っている方がおられれば、ぜひ参加してみてください。過去ログにも沢山の有用な情報が載っています。
Kagakusha:サイエンス大学院留学ML
シゲキ的。バイオな法則(杉井重紀さんのページ)
志望の大学院は、「自分の興味のある分野で有名雑誌に研究を発表している教授のいる大学」で中西部にある大学を主にPubmedで探しました。大学院選びについては過去のエントリーを参照してください。こればっかりは自分の興味のある分野に詳しい人でないとなかなか実情はわからないと思います。最後は直感で選んでしまってもいいかもしれません。一度に出願するプログラムの数は私は3つでしたが、10箇所以上に同時に申請することも可能です。ただ後述するエッセイや推薦状をいくつも用意しないといけないので多少手間はかかります。
こうして志望先を見つけてからは、ホームページを見て、申請に必要な書類を確かめなければなりません。サイトのレイアウトはプログラムによって全く違うし、同じ内容であっても呼び方が違ったりして、欲しい情報を手に入れるのに私は散々苦労しました。"Faculty Bios"やら"Faculty List"やら"Directory"など全部同じことを指していたりします(この場合は教授の名前リスト)。まあ大概は学科のホームページに行って"Admissions"や"Graduate Program"あたりをクリックすれば、大学院の申請に関する詳細を見ることができます。
ちなみに私が大学院の申請に際して用意した書類:

1.申請カバー用紙(経歴など)
2.TOEFLの成績
3.GRE(Graduate Record Examination)の成績
4.大学の成績
5.エッセイ(Statement of Purpose)
6.推薦状3通
7.(Optional)GRE Subjectの成績

もしかしたらこの他にも大学によって提出しなければならない書類があったかもしれません。大学のホームページは必ずチェックしてください。TOEFLGRE(GeneralとSubjecct)に関しては、詳しく書いていくとそれぞれで何冊もの本を書けるくらいなのですが、ここでは簡単に書きます。
TOEFL
私が受けたのはTOEFL-CBT(Computer-Based Test)でリスニング、文法、ライティングの三科目で合計300点として計算されました。現在はCBTに代わってiBT(Internet-Based Test)が主流になっているようで、文法がなくなってリーディングとスピーキングが追加されたようです。日本人は文法が一般的に得意だと思うので(私も最終的に文法だけは満点を取れました)、これはちょっと日本人としては痛い変更ですね。私の場合、リスニングには一番苦労しました。でもその分、糊代(のりしろ)は多く残されています。合計3回テストを受けましたが、リスニングが一番伸びて、最初25問中半分ほどしか正解しなかったのですが、最後には22問正解できました。とにかく英語を毎日聴いて、手当たり次第に問題集を解いていくしかないんじゃないかと思います。ライティングも同様です。私の時は300点中250点取れればほとんどのプログラムの必要条件は満たしていました。
[参考] TOEFL公式ホームページ(英語)CIEE TOEFLのページ(日本語)Wikipedia
GRE
GREは大学院のためのセンター試験のようなもので、GeneralとSubjectがあり、それぞれ一般知識・能力と専門知識を問われます。これはアメリカ人と同じ土俵で勝負しなければなりません。GeneralではAnalytical(作文)、Verbal(国語)、Quantitative(数学)の三つのセクションがありますが、はっきり言って数学以外はかなり苦戦しました。数学はほとんど算数のような感じでアジア人なら満点を取ることも珍しくありませんし、私も満点でしたが、verbalはさすがにアメリカ人の国語だけあって難しい。でも留学生にも関わらずverbalとanalyticalの点数が良ければそれだけ審査員に印象付けられると思います。私はこの二つが良くなかったので、できるアドバイスはあまりありません(笑)残念ながら。でもこの二つはかなり早期から問題集などで練習に取り組む必要があることは確かです。付け焼刃ではどうにもならないと思います。
Subjectでは分子生物学や物理学、化学などに分かれたテストが用意されていて、どれか一つを選んで受けることができます。自分の行きたいプログラムの指定されている分野をチェックする必要があります。私は分子生物学を受けました。このテストはペーパー方式で、会場や日程が限られていたのですが、私の時は運良く大阪で開かれていたので比較的簡単に受けることができました。現在ではどうかわかりませんが住んでいる場所によっては遠くに行かなければならないかもしれません。あと、このテストはプログラムによっては提出しなくてもよい場合があるので、成績が気に入らなければ提出しなくてもいいかもしれません。私は今いるプログラムの申請にはSubjectの成績を提出しませんでした。
[参考] GRE公式ホームページ(英語)Prometric GRE試験予約ページ(日本語)Wikipedia(英語)
大学の成績
大学の授業は真面目に受けましょう!
エッセイ
自分がなぜそのプログラムに応募するのか、その動機の自分のことについてツラツラと書きます。特に決まったフォーマットはないと思いますが、出来ればアメリカ人の知り合いなどがいれば相談することをお勧めします。添削もしてもらわなければなりません。私は英会話の先生に頼みましたが、それ自体は無料でやってくれても、英会話に通うこと自体お金が馬鹿みたいにかかるので、研究室にアメリカ人留学生(他の英語圏から来た人でもOK)などがいればそういう人たちに聞くのがベストだと思います。
推薦状
研究室の教授、准教授、助教、学部のクラス担任、隣の研究室の教授などとりあえず自分を知っている人に頼むのが普通です。でも私の場合は頼んでみると3人中2人に「原稿書いてきて。」と言われたので、ほとんど推薦状でもなんでもなく、自薦状となりました。これは本当はまずいと思うのですが、こういうボスたちも日本では多いと思います。エッセイでも自分を褒めなければなりませんが、他人の目から自分を褒める文章を書く練習もしておきましょう(笑)
 
これらの書類が整えば、ほとんどのプログラムはオンラインで書類を提出できるようになっているので、それをすると同時にこれらをプリントアウトしたものを郵送もしました。TOEFLGREのテスト結果はテストを主催する機関から直接大学に送られます。提出期限は12月から1月にかけてがほとんどなのですが、11月ごろに書類がすべて整っているのが理想的だと思います。プログラムから奨学金に応募してくれる場合があるのですが、その場合の締め切りが通常の締め切りより少し早くなっているので注意しましょう。私は間に合わず、もっと早くから準備を始めていたらなあ、と思いました。それだけじゃなく、できるだけ早くから準備を始めるに越したことはありません。TOEFLGREも一年に5回(?)ほど毎月受けることができるので、自分の満足する点数が取れるまで受け続けたほうがいいと思います。書類を提出し終わった後でも、テストでよりよい点数が取れれば、連絡すれば成績を差し替えてくれます。
合否の結果は3月から5月の間に届くと思います。詳細はプログラムに問い合わせたらいいと思います。
あと、志望大学が決まった時点で、大学を訪れるのもいいと思います。私は10人ほどの教授(全く面識が無い)にメールを送って返ってきた5人くらいの教授の研究室を10月に訪問しました。このときYale Universityの教授にとても親切にしてもらって、その前に他の教授に邪険にされた経験もあってとても感激しました。今でも忘れません。現在所属している大学では綿密なスケジュールを組んでくれて、連絡を取った教授だけでなく、10人弱の教授にかわるがわる会って話をし、大学院生と昼食を共にしました。そういうリクルートに熱心なところもあります。
今から考えると大学の4年生になってからは研究室の実験、(日本の同じ大学の)大学院試験、アメリカの大学院への申請と3足のわらじを履いてかなり精神的余裕もなかったような気がします。もう一度大学生活を繰り返せるなら、(A)大学の授業をもっと真面目に受けて、(B)留学の準備を早めに始めて、(C)できることなら交換留学プログラム(UC Berkeleyなどとの交換留学があった)にも参加したかったと反省しています。
でもまあ、大学時代はまったく無駄だったわけでもなく、サークル活動を通して人間性を磨くこともできましたし、それまで受験勉強ばっかりで狭かった視野を大きく広げる機会を多く持つことができました。勉強と社会活動のバランス感覚がもう少し必要だったな、と思うだけです。
[参考] アメリカ留学前の思い出
このようにして、結局私は申請した中西部の大学の3つのプログラムのうち2つに合格して、そのうちオハイオのプログラムに行くことを決意したのです。大学を訪問したときの印象が良かったですし、若い教授が多く、熱心に指導してくれると感じたのです。そして結果的にはその印象は正しかったと思っています。
留学の準備を進める上で大事なことは、わからないことがあったら怖がらずにすぐに質問することだと思います。プログラムのディレクターにしろ、教授にしろ、メールが返ってこないことも多いですが、くじけず何度でも質問する勇気が必要です。またアメリカ留学経験者の知り合いがいれば、皆苦労を知っているので、誰でも快く味方になってくれるはずです。
私もこのエントリーが一人でも多くの留学希望者の助けになることを願っています。幸運を!!!